行ったり来たり行き止まり

14 ページ14

スープは半分以下になったけれど、最初の言葉通りユンギの家に鍋を置き去りにしてきた。
鍋がいつ返ってくるかは定かではないけれど、帰り際に


「近々返すよ、夜大体家にいるでしょ？」


そう言われたから特別心配はしていない。
鍋云々よりも"夜大体家にいる"ってなんでバレてるんだろうって、そっちの方が気になった。
夜出かけるような相手がいないって寂しい奴だと思われただろうか。

いや、夜出かけるような相手がいないのは事実なんだけども。


穏やかに粛々と、でも何処か男らしく豪快な食べ方をしつつも、両頬を膨らませてもくもくと口を動かしてるのは小動物のようにも見えなくなくて、私の記憶に強く残った。

短い所作の間にそんなにころころと印象が変わるのが珍しいし羨ましくて。
やっぱり芸能人だからなのだろうか。
それともユンギだからなのか。



昨日のその場面を時々思い出して過ごした午前中。
昼休憩の時間終了の十五分前。
ノイズキャンセリングをオンにしてヘッドホンから流れる音楽に集中していたのだけれど


「何聞いてんの？」


デスクに戻って来たドユンが私を見ながらそう口を動かしたからヘッドホンを外した。
のだけれど、表側で置きっ放しにしていた私の携帯の画面に目を落としたドユンが


「MAX…フューチャリング、SUGA？」


と、首を傾げて先にそう声に出した。
そしてその後にすぐ'誰？'と。


「洋楽の歌手と、えー…BTSの人」


「え、A、BTS好きだった？」


声が大きい！とは思ったが案の定。
少し離れたデスクにいたBTSファンの同期が立ち上がった音が聞こえて…目が合った。

好きとかそういうんじゃなくて、何となく聞いてみようかなって、聞いてただけなんだけど＿＿＿＿


「A、ユンギ？ユンギが好きなの？」


目が合った数秒後には私とドユンの間に来ていたBTSファンの同期。
目を輝かせている。
水を得た魚、だ。

'ユンギ？'と言ったのはドユン。
私は好きとか嫌いとかそういう次元にまで達していないし、"ユンギ"と聞いて思い浮かぶのは家でぽさぽさと動いてるあっちのユンギが強くて。

休憩終了まで残り十分弱。
BTSファンの同期が'あのね'と始まったから、これは長い十分になりそうだと覚悟した。

15→←13

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す